30年の絆を生むJOSEPH ABBOUDの接客術

お洋服は何かしら家にたくさんあるはずなのに、毎年いろいろ買ってくださる理由はなんですか?——販売員時代、四井さんはリピーターのお客様にそう尋ねることがあった。返ってくる言葉は、いつも決まっていた。「着心地が良い」。その一言がジョセフ・アブードの本質を語る、と彼女は言う。

高校卒業後すぐに洋服の世界に入り、28年をジョセフ・アブードと共に歩んできた四井さん。現在は本部でVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を担当し、全国の店舗に「アブードらしさ」を伝え続けている。ブランドの知られざる魅力、30年の歴史の裏側、そして人と人が繋がるアパレルの醍醐味について、たっぷり語っていただいた。

28年という時間

——ジョセフ・アブードには、どんなきっかけで入られましたか?

高校を卒業してすぐに洋服屋に入って、最初はレディースでスタートしました。35ほど前にご縁があってオンワードに誘われたですが、最初はアルバイトで「半年くらいのつもり」だったんですよ(笑)。それが、アブードを担当して28年になります。あっという間でしたね。

——最初からジョセフ・アブードを担当されていたですか?

いえ、最初はUIVIのスーツやカジュアルのウッドハウスを担当して、その後アブードに移って、販売・店長として新宿高島屋でずっと働いて、エリアマネージャーになったのが1213年前。今は本部でVMDをやっています。

「売れない」という経験

——新宿高島屋時代は、苦労も多かったとお聞きしました。

あの頃のアブードはまだ知名度がなくて、売り上げも本当に苦しんでいた時期でした。私自身、担当するブランドが売れなかったことが一度もなかったので、「売れないって何?」と泣きながら帰っていましたね。

VMDという仕事——「アブードらしさ」を届けるために

——現在担当されているVMDというお仕事について、教えていただけますか?

店頭に行って、ブランドらしさを表現する仕事です。デリバリーごとの展開商品を、どの店舗に行っても「アブードらしさ」が伝わるように整えていく。新店や売り場づくりが苦手な店舗に行って修正したり、「こんな表現をしてください」と指示書を作ったりしています。

ブランドの核心——「着心地」と「スタイリングの楽しさ」

——ジョセフ・アブード独自の強み、他にはない魅力はどんなところだと思いますか?

一番は「着心地」ですね。アブードは日本デビューから30年ほど経ちますが、ずっと買い続けてくださっているお客様がいらっしゃって。販売をしているとき、「お洋服は何かしら家にたくさんあるはずなのに、毎年いろいろ買ってくださる理由はなんですか?」ってお聞きしたことがあります(笑)。そうすると、大体返ってくる言葉が「着心地が良い」。これはもう、絶対返ってくるフレーズです。

二番目は、汎用性の高い「スタイリングの楽しさ」。いろんな組み合わせを楽しめること。リピーターさんや顧客さんになってくださる方の、二大要素だと思っています。

30年のお客様、そしてジャケットが生む「中毒性」

——30年近く通い続けてくださるお客様もいらっしゃると聞きました。

います。池袋西武の店長はデビューからずっとやっている店長ですが、30年近くお付き合いのあるお客様もいらっしゃって。もうお客様の好みが分かっているから、シーズンの初めに「これは好きそうだな」ってあらかじめお取り置きしてしまうんです。それでお客様が来られた時に、お客様と一緒に相談しながら、購入してくださる。そういう信頼関係が30年続いていす。

——どんな方がアブードを選ばれることが多いですか?

入り口は、おしゃれにちょっと鈍くて「自分で選べない」という方が多い気がします。なんとなく羽織るものが欲しい、とふわっとした感じで来られる。意外と多いのが、奥様が「どこで何を買ったらいいか分からない」と来られるケース。手軽なものよりは良いものがいい、でもハイブランドまでは求めていない。そういうお客様が「一度トライしてみようかな」となって、だんだんブランドのファンになってくださります。

ご職業でいうと、自営業の方、お医者様、会社の役員、会社を経営している社長さん。長年スーツを着てこられたから「カジュアルすぎない服」を探しておられる、という方が多い印象です。

——ジャケットはブランドの強みだと聞いたことがあるのですが。

以前は「ジャケットを気に入ったお客様がその後ファンになるというパターンがよくありました。ジャケットはコーディネートで提案できるからリピーターになりやすいです。着ていったら褒められた、着心地も良かった、となって次も来てくださる。ジャケットだけ買って帰られたお客様でも「このジャケットに合うものが欲しい」と後日また来てくださる。なんか、中毒性があるのかもしれません。

20年前のヒット——「ダディポロ」の話

——特によく売れたアイテムはありましたか?

「ダディポロ」ですね。今から20年ほど前のことです。従来のポロシャツ、編み立て襟が主流で、洗濯を繰り返すと型崩れしやすかったり、綿の鹿の子素材が多く、をかくと暑いイメージがあった。それが、ポリエステル混になることで吸汗速乾の機能で、襟元がシャツのように台襟がついてるため、首元に適度なボリュームがつきます。

女性は口紅やアクセサリーで首元に変化をつけられるけど、男性にはそれが少ない肌の露出が少ない方が年齢を感じさせないし、1.52センチほどの台襟が一つつくことで印象がぐっと変わる。それがとても売れました。

名物人物——「作り手の思いを売り手に届けた人」

——長い歴史の中で、印象に残っている方はいますか?

私の中での名物といえば、羽田野さんです。本部で企画やMDの経験を経て事業本部長になった方。デザイナーさんたちが毎週土曜日にマーケットリサーチで店頭に廻ってきてくれるのですが、羽田野さんがいらっしゃると、商品を手に取り「これどう?」「デザイナーがこういう意図で企画したんだけど、どう?」と、作り手へのリスペクトを持ちながら私たち売り手に伝えてくれました。

店頭にいると、接する機会の少ないデザイナーさんたちの意図をそうやって伝えてくれることが、ものすごくありがたくて。「そういう想いで作られたものだったら、一生懸命売ろう」って気持ちになれた羽田野さんがいたことは、私の中ではすごく大きかったですね。

チーフデザイナー・飯島さんとの出会い

——長いキャリアの中で、「やめようか」と思ったことはありましたか?

ありました(笑)。25年ほど前かな。会社にも来たくなかった時期がありましたね。だけど、チーフデザイナーの飯島さんがこのブランドに来てからは、嫌なことはなくなりました。ブランドに入って2年ほどしてから飯島さんが異動してきたんですが、そこからは「難しいな、やめたいな」と思ったことは一度もないです。モノづくりに対する想いが熱い方で、販売スタッフの意見にも耳を傾けてくれて、お客様の傾向も分かってくれる。とても尊敬できる方です。

忘れられないお客様——「あの人だったら間違いないから」

——長い接客経験の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

あるとき休憩中に、店頭のスタッフが呼びに来たんです。「新宿高島屋5階のメンズにいる、オンワードのショートカットの女の人を探している」と。5階でショートカットのオンワードの人といったら私しかいないと思って急いで売り場に戻ったら、まったく初めてお会いする方だったんです。
話を聞くと私のお客様の奥様が、「自分の旦那に服を買いたいけれどどこで買っていいか分からない」と相談されて、「名前は覚えていないんだけど、新宿高島屋5階のメンズのオンワードのショートカットの人、あの人だったら間違いないから」と紹介してくださったらしく、そんなふうに信頼してくださっていたのかと思うと、本当に嬉しかったです。
お付き合いが長くなると、お子様の成長が見えるのも嬉しくて。学生だったお子様が社会人になられ、スーツを選んでほしいと、ご来店されるご家族が何組もいらっしゃいました。
他にも、最初は一緒に来ていたご夫婦が、いつの間にかご主人が一人で来るようになって。「四井さんが選んでくれたものだったら大丈夫だから、一人で行ってきなさい」って奥様に言われるようになった、という方も多々いて、それがやりがいにもつながりました。

これからのジョセフ・アブードへ

——今後のジョセフ・アブードについて、伝えたいことはありますか?

素材の良さとスタイリングのかっこよさをいかに伝え続けていくか、ですね。今は私が直接お客様にというよりも、店頭のスタッフに「このブランドはこういうブランドなんだよ」と伝えていくのが仕事だと思っています。

私が店頭にいた頃、羽田野さんやデザイナーが作り手の想いを語ってくれたように、今度は自分がスタッフと接する時にそれを伝え続けていく。私からスタッフへ、スタッフからお客様へモノづくりの想いを伝えていく——それを怠らず、継続していくことが私の仕事だと思っています。

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